2024年7月27日・28日 聖霊降臨後第10主日
福音書 ヨハネ 6: 1~21 (新174)
6: 1その後、イエスはガリラヤ湖、すなわちティベリアス湖の向こう岸に渡られた。 2大勢の群衆が後を追った。イエスが病人たちになさったしるしを見たからである。 3イエスは山に登り、弟子たちと一緒にそこにお座りになった。 4ユダヤ人の祭りである過越祭が近づいていた。 5イエスは目を上げ、大勢の群衆が御自分の方へ来るのを見て、フィリポに、「この人たちに食べさせるには、どこでパンを買えばよいだろうか」と言われたが、 6こう言ったのはフィリポを試みるためであって、御自分では何をしようとしているか知っておられたのである。 7フィリポは、「めいめいが少しずつ食べるためにも、二百デナリオン分のパンでは足りないでしょう」と答えた。 8弟子の一人で、シモン・ペトロの兄弟アンデレが、イエスに言った。 9「ここに大麦のパン五つと魚二匹とを持っている少年がいます。けれども、こんなに大勢の人では、何の役にも立たないでしょう。」 10イエスは、「人々を座らせなさい」と言われた。そこには草がたくさん生えていた。男たちはそこに座ったが、その数はおよそ五千人であった。 11さて、イエスはパンを取り、感謝の祈りを唱えてから、座っている人々に分け与えられた。また、魚も同じようにして、欲しいだけ分け与えられた。 12人々が満腹したとき、イエスは弟子たちに、「少しも無駄にならないように、残ったパンの屑を集めなさい」と言われた。 13集めると、人々が五つの大麦パンを食べて、なお残ったパンの屑で、十二の籠がいっぱいになった。 14そこで、人々はイエスのなさったしるしを見て、「まさにこの人こそ、世に来られる預言者である」と言った。 15イエスは、人々が来て、自分を王にするために連れて行こうとしているのを知り、ひとりでまた山に退かれた。
16夕方になったので、弟子たちは湖畔へ下りて行った。 17そして、舟に乗り、湖の向こう岸のカファルナウムに行こうとした。既に暗くなっていたが、イエスはまだ彼らのところには来ておられなかった。 18強い風が吹いて、湖は荒れ始めた。 19二十五ないし三十スタディオンばかり漕ぎ出したころ、イエスが湖の上を歩いて舟に近づいて来られるのを見て、彼らは恐れた。 20イエスは言われた。「わたしだ。恐れることはない。」 21そこで、彼らはイエスを舟に迎え入れようとした。すると間もなく、舟は目指す地に着いた。
先週までマルコ福音書を読み進めていましたが、今日からしばらく日課はヨハネ福音書に移ります。今日の聖書の物語は、イエス様が舟に乗って湖を渡られるところから始まります。イエス様はガリラヤ湖西岸のベトサイダというところにおられましたが、そこから湖を渡って、ガリラヤ湖の東側へ行かれたのでした。そんなイエス様を大勢の群衆が追いかけます。イエス様が病人たちになさったしるしを見たからです。イエス様が行われたしるし(奇跡行為)を見て、人々はイエス様を信じ、期待を持って後を追ったのでした。
イエス様は群衆に先立って山に登り、弟子たちと一緒にそこに座られます。イエス様は目を上げ、大勢の群衆がご自分の方へ来るのをご覧になります。そして弟子のフィリポにこう問いかけられました。「この人たちに食べさせるには、どこでパンを買えばよいだろうか。」フィリポは「めいめいが少しずつ食べるためにも、二百デナリオン分のパンでは足りないでしょう」と答えます。
しかしその答えはイエス様を満足させるものではありませんでした。たぶんイエス様にとっての正解は「あなたが私たちのパン、私たちの命の糧です」といったところだったのでしょうが、フィリポは残念ながらその答えにたどり着くことができませんでした。しかしイエス様の質問が難しすぎる気もします。「どこでパンを買えばよいだろうか」と聞かれたら、ふつうは買い物する場所について一生懸命考えてしまいますよね。
ともかくそのようなやり取りがあって、フィリポは「二百デナリオン分のパンでは足りないでしょう」と答えたわけですが、1デナリオンというのは当時の労働者の一日分の給料に相当しました。その二百倍である二百デナリオンでもまだ足りないというくらい大勢の人が押し寄せていたのです。集まった人々は男性だけで五千人いたと記されていますから、全員に食べさせるには相当たくさんのパンが必要でした。
そこに弟子のアンデレが加わります。アンデレは「ここに大麦のパン五つと魚二匹とを持っている少年がいます。けれども、こんなに大勢の人では、何の役にも立たないでしょう。」と言いました。フィリポの発言に加えて、彼らの持っているものが足りないということが強調されています。人間の目から見れば、この状況で大勢の群衆に食べ物を与えることは不可能でありました。
しかしイエス様はうろたえません。イエス様は戸惑う弟子たちに命じて、人々を草の上に座らせます。山には草がたくさん生えていました。4節には「過(すぎ)越(こし)祭(さい)が近づいていた」と書かれています。過越祭は春のお祭り、イスラエルの歴史における出エジプトの出来事を記念するものでした。イエス様はユダヤの慣習に従って感謝の祈りを口にし、パンと魚を人々に分け与えられます。パンが増えたとはどこにも書かれていないのですが、そう考えて良いでしょう。パンは分け与えても分け与えてもなくなりませんでした。
イエス様のなさったこの奇跡は、出エジプトにおけるマナの奇跡を思い出させます。出エジプト記16章にはこう書かれています。「主はモーセに言われた。『見よ、わたしはあなたたちのために、天からパンを降らせる。民は出て行って、毎日必要な分だけ集める。」かつてイスラエルの民が荒れ野で飢えた時、神は「天からのパン」を降らせて人々を養われました。同じように、神の子であるイエス様も、ご自分の民を「天からのパン」で養われます。それは手にしてみればただのパンでありましたが、人が買ったものでも作ったものでもない、奇跡のパンでありました。
そうして人々は欲しいだけ食べて満腹しました。食事の後、イエス様は弟子たちにパン屑を集めるように指示されます。食べ残しを集めるのがユダヤの食卓の風習であったからです。その結果、パン屑だけで十二の籠がいっぱいになったとあります。このことは供食(きょうしょく)の規模の大きさを物語っています。
人々はこの奇跡を目の当たりにして「まさにこの人こそ、世に来られる預言者である」と言いました。世にきたるべき預言者というのは、申命記18章で語られているモーセのような偉大な預言者という意味でしょう。あるいは今日の第一の日課に選ばれているエリシャのエピソードを思い出したかもしれません。人々はこの素晴らしい奇跡を目の前にしてイエス様のことを信じたのでした。しかし一方で、彼らはまだイエス様のことを神の子として信じたのではありません。むしろ「預言者の一人」「政治的指導者」として見ていました。彼らがイエス様を「王にするために」連れて行こうとしたので、イエス様はそこから退かれたとあります。
それに続いて語られるのが湖でのエピソードです。荒れた湖の上をイエス様が歩かれた、それを見て弟子たちは恐れた、というお話しでした。そこでイエス様は弟子たちに「わたしだ。恐れることはない。」と声をかけられます。「恐れるな」という言葉は、父なる神様が、旧約聖書の大事な場面で、度々語られた言葉です。イエス様も同じ言葉を、神の子として、弟子たちに対して語られます。群衆に「預言者」と呼ばれ、この世的な意味での「王」になることを期待されていたイエス様は、ここで改めてご自分が「子なる神」であることをお示しになられたのでした。そうして弟子たちはイエス様を舟に迎え入れます。パンの奇跡に続く、不思議な出来事でした。
以上が今日のお話しでした。今日の聖書の物語で、イエス様はパンと魚をもって大勢の人々を養われました。それは人が買ったものでも作ったものでもない、奇跡のパンでありました。父なる神が荒れ野でイスラエルの民を養ったように、子なる神であるイエス様も人々を養われます。それでも群衆はイエス様がどなたであるかを完全に理解することができず、イエス様が預言者や王であることを期待しました。しかしイエス様は水の上を歩かれ、「恐れるな」と呼びかけて、再びご自分が神であることをお示しになりました。今日語られた奇跡はいずれも、イエス様がまことの神であることを物語っています。私たちを養い、自然を超越し、「恐れるな」と語られる、まことの神の姿です。
そして今日のエピソードは、来週以降読んでいく「天からのパン」「命のパン」のお話への入り口でもあります。これらの箇所を通して、イエス様がどなたであるのか、何のためにこの世に来られたのかということがますます明らかになっていきます。この続きをまたご一緒に聞いていきたいと思います。
7月27日・28日 教会の祈り
司)祈りましょう。
全能の神様。北九州市・直方市をはじめとする各地の学校では先週終業式が行われ、夏休みが始まりました。休みの間、子どもたちが事故やケガから守られて、健康で楽しく過ごすことができるように祈ります。
恵みの神様。入院の準備をしている人、病気療養中の人、不調が続いている人のために祈ります。そのようなみなさんをあなたが御手(みて)のうちにお守りください。また、支えておられるご家族やスタッフのみなさんをあなたが顧(かえり)みてください。
慈しみの神様。あなたが荒れ野でご自分の民を養われたように、イエス様は私たちを養ってくださいます。私たちに日ごとの糧を与えてください。感謝と信仰を持って生きられるように、私たちの心を新たにしてください。
私たちの主イエス・キリストによって祈ります。
会)アーメン
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