2023年10月8日 聖霊降臨後第十九主日
マタイによる福音書21章33～46節「救いの土台」
福音書 マタイ 21:33～46 (新42)
33「もう一つのたとえを聞きなさい。ある家の主人がぶどう園を作り、垣を巡らし、その中に搾り場を掘り、見張りのやぐらを立て、これを農夫たちに貸して旅に出た。 34さて、収穫の時が近づいたとき、収穫を受け取るために、僕たちを農夫たちのところへ送った。 35だが、農夫たちはこの僕たちを捕まえ、一人を袋だたきにし、一人を殺し、一人を石で打ち殺した。 36また、他の僕たちを前よりも多く送ったが、農夫たちは同じ目に遭わせた。 37そこで最後に、『わたしの息子なら敬ってくれるだろう』と言って、主人は自分の息子を送った。 38農夫たちは、その息子を見て話し合った。『これは跡取りだ。さあ、殺して、彼の相続財産を我々のものにしよう。』 39そして、息子を捕まえ、ぶどう園の外にほうり出して殺してしまった。 40さて、ぶどう園の主人が帰って来たら、この農夫たちをどうするだろうか。」 41彼らは言った。「その悪人どもをひどい目に遭わせて殺し、ぶどう園は、季節ごとに収穫を納めるほかの農夫たちに貸すにちがいない。」 42イエスは言われた。「聖書にこう書いてあるのを、まだ読んだことがないのか。
『家を建てる者の捨てた石、
これが隅の親石となった。
これは、主がなさったことで、
わたしたちの目には不思議に見える。』
43だから、言っておくが、神の国はあなたたちから取り上げられ、それにふさわしい実を結ぶ民族に与えられる。 44この石の上に落ちる者は打ち砕かれ、この石がだれかの上に落ちれば、その人は押しつぶされてしまう。」
45祭司長たちやファリサイ派の人々はこのたとえを聞いて、イエスが自分たちのことを言っておられると気づき、 46イエスを捕らえようとしたが、群衆を恐れた。群衆はイエスを預言者だと思っていたからである。
引き続き21章を読んでいきます。先週読んだ「権威についての問答」「二人の息子のたとえ」の場面では、イエス様がイスラエルの指導者たちと対峙され、彼らの誤りを指摘して悔い改めを促したということが語られていました。イエス様は激しく祭司長と長老たちを攻撃されましたが、まさにそのような行動が引き金となって、最後には十字架にかけられることになったのです。イエス様の指摘は命がけの悔い改めの呼びかけでした。イエス様はそれほどまでに、人々が悔い改めて救われるのを望んでおられたのです。
今日のお話は、その続きにあたります。「ぶどう園と農夫のたとえ」です。あるところにぶどう園の主人がいました。ぶどう園にたとえられているのは神の国、ぶどう園の主人にたとえられているのは神様です。ぶどう園の主人は、ぶどう園を作り、垣を巡らし、絞り場を掘り、さらに見張りのやぐらを建てます。このたとえの着想は、今日の旧約聖書の日課であるイザヤ書5章から来ています。
何もないところからぶどう園を作った主人は、並々ならぬ愛と情熱をもってこのぶどう園を世話しました。岩や石を取り除いて土を耕し、ぶどうの実を保護するために柵を巡らせて見張りのやぐらを建て、さらには収穫後のぶどうをぶどう酒にするための絞り場まで作っています。永吉先生のお話によればぶどうというのはすぐに実をつけるものではないそうで、最低でも五年ほどかかるそうです。種を植えるまでに数年、実を成らせるまでに五年、長い時間をかけてぶどうの実が育まれていきます。神様はこのように、ご自分の創造された世界を、長い年月をかけて慈しんでこられたのです。
ある時ぶどう園の主人は旅行に行くことになります。そこでぶどう園の主人は自らの大事なぶどう園を農夫たちに貸し出しました。いくらか分け前を与えて、ぶどう園を世話してもらい、収穫したぶどうの実を送ってもらうためです。農夫にたとえられているのがイスラエルの民、特にその指導者たちです。主人は農夫を疑いません。彼らに自分の大切なぶどう園をすっかり預けて、自らはすぐに帰ってこられないような遠いところに旅に出ます。しかし主人の期待は裏切られることになります。やっと実がなって、いよいよ収穫となった時、主人は収穫を受け取るために自らの僕を送りますが、農夫たちはその僕を殺してしまいます。収穫のすべてを自分たちのものにするためです。この、主人から遣わされた僕にたとえられているのが、預言者です。神から遣わされた預言者たちは、イスラエルの人々に疎まれ、迫害されました。ある者は袋叩きにされ、ある者は殺され、ある者は石で打ち殺されたのです。
それを受けたぶどう園の主人はさらに多くの僕を送りましたが、みな同じ目に遭うだけでした。エレミヤ書7章では神様が「お前たちの先祖がエジプトの地から出たその日から、今日に至るまで、わたしの僕である預言者らを、常に繰り返しお前たちに遣わした。それでも、わたしに聞き従わず、耳を傾けず、かえって、うなじを固くし、先祖よりも悪い者となった。」と語られています。ここで言われている通り、神様は預言者たちを継続的に派遣されましたが、それはすべて無駄に終わっていました。
最後に主人は自分の息子をぶどう園に送ることにします。「わたしの息子なら敬ってくれるだろう」という思いからです。その息子こそがイエス様です。イエス様は父なる神様の子として、最後の救いの手段として、この世に遣わされました。「わたしの息子ならきっと敬ってくれるだろう」とおっしゃる父のお気持ちに応えて、人となってこの世に来て下さったのです。しかし農夫たちは主人が思ったよりも悪意に満ちて、強欲でした。彼らは息子をちっとも敬わないばかりか、その相続財産までも奪い取ろうとして彼を殺してしまいます。息子はぶどう園の外で殺されました。そのことは、エルサレムの外に引き出されて殺されることになるイエス様の死を暗示しています。
さらにイエス様はこう言われます。「家を建てる者の捨てた石、これが隅の親石となった。これは、主がなさったことで、わたしたちの目には不思議に見える。」この言葉は詩編118篇からの引用ですが、詩編で言われるところの捨てられた石、これが私であるとイエス様は言われます。しかしそんな私こそが隅の親石であるというのです。「隅の親石」（the corner stone）とは建造物の基礎の四隅に置かれる大きな石を指しています。隅の親石には特に立派な石が選ばれ、紀元前20年にヘロデ大王が再建・拡張したエルサレム神殿の隅の親石は、幅約2メートル、高さ約90センチメートル、重さ約8トンもあったことがわかっています。イエス様はこの言葉を通して、イスラエルの指導者が捨てた自分がイスラエルの民の救いの土台であることを説いておられるのです。彼らが取るに足らないもの、価値のないものとみなしたものが、かえって彼らにとって最も大切なものであったということが言われています。
今日のたとえ話において、ぶどう園の主人は、多くの僕が殺されたぶどう園に自分の息子を送ります。人々の手で多くの預言者が殺されてもなお「わたしの息子なら敬ってくれるだろう」という最後の希望を込めてイエス様をこの世に送られたのです。そしてイエス様はこの世に来られ、無理解な人間に対して悔い改めを説かれます。その結果、このたとえ話の息子のように殺されてしまうのです。要らない石、取るに足らない物として人間から捨てられてしまいます。しかしまさにそのイエス様こそが最も大切なもの、私たちの救いの土台であることを私たちは知っています。殺されても、捨てられても、私たちを愛し悔い改めを呼びかけてくださるイエス様に私たちは従っているのです。
私たちは神の国につながりながら、時にこの悪い農夫たちのように自分の満足だけを考えて、自分のものではないものまで欲しがって、主である神様の思いに背いてしまいます。しかし良い農夫なら、ただ任されたぶどう園で一生懸命働いて、収穫が来れば自分の定められた分をいただいて、あとは主にお返しするはずです。ぶどう園もぶどうの実も、すべては主のものだからです。私たちもまた、与えられた人生を一生懸命に生きて、神様からいただくものに感謝して、あとはすべて神様にお任せしたいと思います。私たちの命も持ち物も、すべては神様のものだからです。イエス様の深い愛に支えられて、神様の思いを大切にして生活していきたいと思います。