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逃亡と帰還

Updated: Oct 11, 2020


マタイによる福音書2章13-23節 2:13 占星術の学者たちが帰って行くと、主の天使が夢でヨセフに現れて言った。「起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げ、わたしが告げるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが、この子を探し出して殺そうとしている。」 2:14 ヨセフは起きて、夜のうちに幼子とその母を連れてエジプトへ去り、 2:15 ヘロデが死ぬまでそこにいた。それは、「わたしは、エジプトからわたしの子を呼び出した」と、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。 2:16 さて、ヘロデは占星術の学者たちにだまされたと知って、大いに怒った。そして、人を送り、学者たちに確かめておいた時期に基づいて、ベツレヘムとその周辺一帯にいた二歳以下の男の子を、一人残らず殺させた。 2:17 こうして、預言者エレミヤを通して言われていたことが実現した。 2:18 「ラマで声が聞こえた。激しく嘆き悲しむ声だ。ラケルは子供たちのことで泣き、/慰めてもらおうともしない、/子供たちがもういないから。」 2:19 ヘロデが死ぬと、主の天使がエジプトにいるヨセフに夢で現れて、 2:20 言った。「起きて、子供とその母親を連れ、イスラエルの地に行きなさい。この子の命をねらっていた者どもは、死んでしまった。」 2:21 そこで、ヨセフは起きて、幼子とその母を連れて、イスラエルの地へ帰って来た。 2:22 しかし、アルケラオが父ヘロデの跡を継いでユダヤを支配していると聞き、そこに行くことを恐れた。ところが、夢でお告げがあったので、ガリラヤ地方に引きこもり、 2:23 ナザレという町に行って住んだ。「彼はナザレの人と呼ばれる」と、預言者たちを通して言われていたことが実現するためであった。

「私たちの父なる神と主イエス・キリスト(「救い主」という意味の称号)から、恵みと平安とが、あなたがたにあるように。アーメン」

私たちは、これまでに何度もクリスマスをお祝いしてまいりました。「イエスのお生まれ」と聴く時、どのような光景を思い浮かべられるでしょうか。

馬小屋の中心に、飼い葉おけの中に布にくるまれて眠る赤ちゃんイエスさま、それを見守るように寄り添うマリアとヨセフ、そして、訪ねてきた宝を捧げた三人の博士、羊飼いたち。馬小屋の上には、星と天使が輝いている。昔に見た絵本は、そのような絵が描かれていたような気がします。

しかし実は、クリスマスについては福音書ごとに書かれている内容が違うのです。

天使と羊飼いたちが出てくるのはルカ福音書。天使のお告げを聴いて出かけた羊飼いたちは、馬小屋で飼い葉おけに眠る赤ちゃんを見つけました。

マタイ福音書には、占星術の学者(博士)たちが登場します。彼らが星に導かれて辿り着いた先は、馬小屋ではなく「家」です。しかも宝が3つであるだけで、3人で来たとは書かれていません。

これらが混ぜ合わせると、私たちのイメージするクリスマスの光景になるのです。描かれ方は異なりますが、イエスが暗闇を生きる全ての人々にとっての光、救いとしてお生まれになったと伝えています。

本日は、マタイ福音書の伝える、イエスの降誕の後日談について聴いてまいります。

「占星術の学者たちが帰って行くと、主の天使が夢でヨセフに現れて言った。『起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げ、わたしが告げるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが、この子を探し出して殺そうとしている。』ヨセフは起きて、夜のうちに幼子とその母を連れてエジプトへ去り、ヘロデが死ぬまでそこにいた」(2:13~15)。

学者たちは、東方の国に住んでおり、そこで星占いを生業としていました。星の配置や輝きから未来を予測していたのでしょう。彼らは、ある日ひときわ輝く星を見つけ、その星がユダヤ人の王様の誕生を伝えているのだと解釈しました。彼らは、自分たちの研究の成果を確かめるためか、高価な宝物を携え、星の指し示す先へと旅に出たのです。本当にユダヤ人の王が生まれていれば、彼らの星占いの信憑性、占星術師としての功績となるからです。

しかし、彼らは一度ひときわ輝く星を見失うのです。星の示すおおよその場所は、それまでの観察で把握していたためか、学者たちはエルサレムの王宮に立ち寄ったのです。

そこに居たのが、ヘロデ大王です。時の王は、専門家たちに聖書を調べさせ、ユダヤのベツレヘムに王が生まれることになっていることを突き止めました。そして、外国の学者たちを派遣し、実際に生まれているのかを確かめ、後ほど報告するように申し付けたのです。

こうして王宮から送り出された出た学者たちの上に、見失っていたひときわ輝く星が再び輝き出ました。再び星に導かれ、学者たちはついに家に居るイエスと出会ったのです。宝物を捧げ、目的を果たした学者は、夢で「ヘロデ大王のところに帰るな」というお告げを聴いたため、別の道で帰っていきました。

同じように、ヨセフも夢で天使のお告げを聴きました。その内容は、「ヘロデ大王がイエスを殺そうとしているため、エジプトに逃げなさい。」というものです。彼は、その夢を見た直後、妻マリアと幼子イエスを連れ、お告げの通りエジプトに移り住みました。

一時は「天使によって身ごもったことを告げられた。」と言うマリアと、ひそかに縁を切ろうかとヨセフは思い悩んでいました。しかし、イエスが生まれ、外国の学者たちが宝を携えてやって来た今、もはや神を疑うことなく、お告げに従って即行動を起こしています。

「さて、ヘロデは占星術の学者たちにだまされたと知って、大いに怒った。そして、人を送り、学者たちに確かめておいた時期に基づいて、ベツレヘムとその周辺一帯にいた二歳以下の男の子を、一人残らず殺させた」(2:16)。

ヘロデ大王は、外国の学者たちが報告に来ないことから、彼らが星を発見した日から逆算し、ベツレヘムの2歳以下の男の子を虐殺したと書かれています。つまり、イエスはこの時2歳くらいになっていたということでしょう。

どの歴史書にも、このような虐殺について書かれていないことから、本当にあったのかと疑われます。しかし、ベツレヘムは当時小さな村でした。人口は1000~300人だったと言う学者もいます。30人ほどの男の子を殺したとしても、大事件として歴史書に書き残されない場合もあります。

カトリック教会などでは、古くからこの時虐殺された子どもたちを聖人として考え、クリスマスの後に覚え続けてきました。ルーテル教会でも、新しい聖書日課に則り、今回はこの出来事について聴いています。

世の権力者、この世界を我が物のように考える者にとって、イエスの誕生は受け入れがたいことでした。しかし、その権力を最大限利用しても、赤ちゃんイエスを殺害することはできなかった。神の救いの計画は、必ず果たされるという意味で、語り継がれてきたのでしょう。

「そこで、ヨセフは起きて、幼子とその母を連れて、イスラエルの地へ帰って来た。・・・夢でお告げがあったので、ガリラヤ地方に引きこもり、ナザレという町に行って住んだ。『彼はナザレの人と呼ばれる』と、預言者たちを通して言われていたことが実現するためであった」(2:21~23)。

マタイ福音書は、イエスの誕生の場所がベツレヘムであること、王から殺されないようにエジプトに逃げたこと、そして、エジプトから帰還した後、一家がガリラヤ地方のナザレ村に住んだこと、その全てが、聖書で既に「言われていたことが実現するためであった。」と説明します。

著者にとって「イエス」は、『旧約聖書』に書かれる約束を実現するためにお生まれになった「救い主」に違いなかったのです。神は約束を必ず果たされる。イエスとは、権力者の暴力によっては止めることのできない、神の与えられた希望の光である。マタイ福音書が伝える力強いクリスマスのメッセージを、私たちは聴くのです。

「望みの神が、信仰からくるあらゆる喜びと平安とをあなたがたに満たし、聖霊の力によって、あなたがたを望みにあふれさせてくださるように。アーメン」

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